詩 『言葉の水』
『言葉の水』 あの人はめずらしく よく喋った いつも聞く人だったのに あの人はよく喋った 栓を抜くと 出るわ出るわ すごい水だ 言葉は水で ものすごく広がり どんどんどんどん 水が出てくる あの人はずっと喋りたかったのだ あの人の言葉は水のように 噴出して出るは出るわ どんどん出てくる 詰まったものが全部出た時に あの人は すっきりした顔になっていた 生物の言葉とは 発出とは 快楽であり デトックスだ これを出ないと心身とも悪くなる だからあの人はよく喋った あの人は 頬を赤くして まっすぐまっすぐこっちもあっちも 噴出する 言葉の水は空気に混ざって 拡散していく 喋れない人も 実は喋っている あまりにも饒舌だ あの人たちもこっちの人たちも その声を聞いている 喋れない人 喋らない人こそ すごいすごい言葉の水だ いつも聞いている 耳で目で気配で聞いている あの人はよく喋った 毒が出たように 詰まったものが全部出たように 言葉の水は 拡散して 消えていった 空気が美味しい 森の中ではない 田舎の山や川でもない 海の波も必要ない 秋の青空の下でなくとも ここにいれば空気が美味しい 人々の善の心の現れだ あの人はめずらしく よく喋った 赤い布をみんな手に出して 白い布をみんな手に出して 静かな人もいれば しゃべる人たちもいる 毒づいた言葉もいい 得ある言葉もいい とにかく喋れば みんな 楽になる 溢れる言葉よ 溢れる水よ 循環して もっともっと回っていけ