詩 『おばちゃんの庭』
『おばちゃんの庭』(1964〜1971年辺り 名古屋市北区中味鋺北合戸 味鋺住宅F棟 周辺の景)
おばちゃんの庭は
いつも草が ボーボー で
味鋺住宅の
小さくもなく大きくもない庭で
暇があれば見ていた
ぼんやり見ていた
おばちゃんの庭は
外道に行く時の 人道というより
獣道みたいで
人がそこを歩いて外に出ると
そのたびに道ができたと思う
おばちゃんの庭は
のんびりとして好きだった
西側に大きな松の木があって
雨が降ると
大きなカタツムリが幹を登っていた
松ぼっくりが落ちていた
松ヤニの黄色もあった
おばちゃんの庭は
からの牛乳瓶が並ぶ縁側で
あの牛乳瓶の匂いも大好きだった
牛乳配達をしていたおばちゃんは
残ったフルーツ牛乳とか
マミーとか
メロンヨーグルトとか
残ったものを
たまに食べさせてくれた
おばちゃんの庭は
味鋺住宅の
木造の内田さんの庭とは 真逆で
内田さんの庭は手入れが整っていて
草一つなく美しい垣根だった
垣根は木の縦横で組まれ
一点二点で
黒い紐で結ばれていた
外から玄関に着くまでの
踏み石も整頓整理されていた
歩く時はその石を歩いて行く
日本庭園みたいだった
それでもおばちゃんの庭は
いつも草がボーボーで
名前を知らないたくさんの草が
混然と茂っていた
垣根はあったけれど
草が高くて何か植物が生きていた
ねえ おばちゃん
あの庭が好きでね
ぼんやり見ていたんです
「けいちゃん、だめよだめよ」
とたまにおばちゃんが諭した
おばちゃんは
一度も怒ったことがなかった
おばちゃんの庭は
穏やかでいつも安心だった
おそらく亡くなったおじちゃんも
空間の中で微笑んでいたかもしれない
おばちゃんの庭は
草がボーボーでね
緑の葉っぱがいっぱいあって
人道なのか 獣道なのか
歩けばその時に 道ができた
人が動かなくなったら
おばちゃんの庭はまた
草がボーボー でね
楽しいよりも
不思議な庭だった
毎日おばちゃんの家に行くと
穏やかで安心した
おばちゃんの居間に
モスグリーンのソファーがあって
ルノワールの豊満女性の絵があって
ステレオから
「雨を見たかい」とか
「ヘイジュード」とか
「コンドルは飛んで行く」とか
スピーカーに耳を寄せて
好きで何度も何度も聴いていた
おばちゃんの庭は
いつも みどりみどりで
穏やかで安心した
おばちゃんの表情も
穏やかで
内職を手伝ったこともあった
ある日
カラーテレビが居間に出現すると
赤緑青で作られてるんだと知って
ブラウン管に目を近づけて
三原色をずっと見ていた
赤緑青がカラーテレビの三原色
不思議だった
おばちゃんの庭は
大きな大きなカタツムリ
小さなカタツムリもいっぱいて
殻も落ちていた
草がボーボー
ぼんやり からの牛乳瓶の香りでね
おばちゃんの庭を
何を見るでもなく
眺めていた
おばちゃんの庭は
好きだった
修飾すれば
大好きだった


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