詩 『ナカムラ君への長い手紙』
『ナカムラ君への長い手紙』
今頃の10月の夕方だったか
少し寒い時期
小学生低学年の幼い僕らは
薄暮で
ナカムラ君が僕の名前を呼んでいた
「けいちゃん遊ぼう」
僕は外に出て
すぐ近くの
小さなお好み焼き屋で
ナカムラ君が奢ってくれるから
2人でお好み焼きと
焼き餅があるぜんざいを食べた
鉄板焼きの前で
僕らは食べた
ナカムラ君はアパートに住んでいて
お母さんから
子供にはたくさんだったろうお金をもらって
一人で夕食を食べていたのだ
だからナカムラ君が
一人で食べるのが心細くて
僕の家の外から名前を呼んで
2人で
お好み焼きとぜんざいを
食べに行ったのだ
ナカムラ君も僕もまだ
寂しさという言葉を知らなくてね
甘いぜんざいが美味しかった
お好み焼きも
薄暮から夜になって
僕らはそれぞれの家に帰った
僕には何かがわかっていた
でも寂しさという
言葉を知らなかったのだ
今でもその意味がわからない
それでもね
大人によって
僕らは「付き合ってはいけない」
って言われて
自然に2人でぜんざいを
食べることはなかった
二度となかった
ナカムラ君
僕は今でも君の寂しさはわかるよ
今でもわかるよ
一緒に寂しさを分けたのは
薄暮の色
ナカムラ君
今はもう
家族を持っているのかな
奥さんもお子さんもお孫さんも
いらっしゃるかもしれない
それでも
ナカムラ君の寂しさは
体に染み込んでいて
一生それを忘れることはないんだ
僕もまた忘れることはないんだ
あの美味しいぜんざいは
ナカムラ君に奢ってくれた
あの美味しさは
他では
食べることができないよ
ナカムラ君
薄暮は
子供なりに
生きることを始めた時期だったね
寂しさの始まりだったんだね
ちっちゃい友情は
消えたけど
この秋の寒さは
体で覚えているんだよ
ナカムラ君
寂しさの意味が
僕は今でもわからないよ
これが寂しさだとわかるけど
本当の寂しさでは
ないような気がするな
ナカムラ君とお互い
おじいさんになって
寂しさのシンシンな痛みは
2人とも何も言わないで
会えることはないけど
お互い 顔も忘れて
いやー 久しぶり覚えてる?
覚えてないよ
僕もだよ
懐かしいね
恥ずかしいよ
じゃあまたね 元気でね
やはり薄暮の中で
別れて行くんだね
でもナカムラ君
会えてよかったよ
友情じゃなくて寂しさでもなくて
問題はお好み焼きとぜんざいだ
ナカムラ君美味しかったよ
ありがとうね
ごちそうさま って言わなかったかもしれないから今言うよ
ナカムラ君 ごちそうさま 最高に美味しかった

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